ポーランドSF映画の世界

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ポーランド国立映画アーカイブ研究所が企画する「ポーランドSF映画の世界」は、第二次世界大戦後「鉄のカーテン」の向こう側で生まれたSF映画をめぐる旅です。

2025926 – 101

@シネ・ヌーヴォ

ポーランド国立映画アーカイブ研究所が企画する「ポーランドSF映画の世界」は、第二次世界大戦後「鉄のカーテン」の向こう側で生まれたSF映画をめぐる旅です。2025年大阪・関西万博に合わせて特別に編成されたこの厳選プログラムは、数十年前のSF映画の名作から、現代的な視点で描かれた作品まで余すところなく紹介します。

ポーランド映画界のジャンルには非常に興味深いものがありますが、その中でもSF映画は二つの意味で面白いものです。共産主義時代(1945年–1989年)のポーランド映画界においては、高額な製作費や技術的基盤の不足から、SF映画の制作は困難、あるいは不可能だと考えられていました。しかし、ポーランドの映画監督の創造力によって、見事に発展を遂げました。今回、日本のみなさんに向けて選ばれた作品群は、ポーランドSF映画の進化を示し、監督の個性がいかにその流れを形作ったかを浮き彫りにします。

ポーランドSF映画の歴史は、1960年代初頭に遡ります。SFシリーズテレビ番組』の一環として、短編劇映画が小規模映画制作スタジオ「セマフォール」で制作されました。今回のプログラムには、そのうちの3作品が含まれています。『ルイザはどこだ?』(1964年、ヤヌシュ・クビック)、『総暼』(1965年、スタニスワフ・コケシュ)は、どちらも異星文明との接触をテーマにした作品です。オープンエンディングにより不安と曖昧さを残す点が優れたSFの特徴です。そして、『第一パビリオン』(1965年、ヤヌシュ・マイェフスキ)は、「狂気の科学者と危険な実験」というジャンルの典型を扱っています。

さらに、ポーランドを代表する作家スタニスワフ・レム(1921年–2006年)の作品を原作とする映画も上映されます。レムは映画化を嫌ったことで有名ですが、彼自身が評価した特別な2作品がプログラムに選出されています。そのうちの1つが『寄せ集め』(1968年、アンジェイ・ワイダ監督)です。この作品は、短編『あなたは存在するのですか、ジョンズ氏?(原題:Czy pan istnieje, Mr. Johns?を原作としたグロテスクなSFコメディ。ワイダ作品の中では異例の一作です。

『ピルクスの審問』(1978年、マレク・ピェストラク監督)は、短編集『宇宙飛行エピルクス物語』の中の『審問』を基にした作品で、ポーランド初のハードSFの先駆けとなりました。どちらの作品も、レム文学の根底にある「技術進歩がもたらす脅威」という哲学的テーマを扱い、当時はフィクションに過ぎなかった臓器移植や人型ロボットの開発といった未来像を描きましたが、それらは今日では現実となっています。つまりこの両作品もまた、このジャンルが持つ予言的な可能性の一例となっている。 

プログラムにはさらに、ポーランド映画史上もっとも独創的な作品が加わっています。『シルバー・グローブ/銀の惑星』(1987年、アンジェイ・ズラウスキー監督) は、新しい文明の誕生と崩壊を描く哲学的SF大作です。1977年に当局の命令で撮影中止となり、10年後に監督が残されたフィルムをナレーションで補って完成させました。世界SF史の流れを変えたかもしれない「欠けた傑作」として今も議論を呼んでいます。『オビ、オバ:文明の終焉』(1984年、ピョトル・シュルキン監督)は、 原子戦争後の地下社会を描くポストアポカリプス作品。公開当時は戒厳令下のポーランドの寓話として解釈されましたが、今日ではより普遍的な物語として強烈なビジュアルで観客を魅了します。最後に紹介されるのは、近年の注目作2本です。『フォトン』(2017年、ノルマン・レト監督)は、生命現象を題材にした前衛的な映像エッセイ。『ソラリス・モナムール』(2023年、クバ・ミクルダ監督) は、作家スタニスワフ・レムの『ソラリス』に着想を得て、教育映画製作所のアーカイブ映像を用いたファウンドフッテージ作品。記憶と喪失、悲嘆の体験をめぐる多層的なビジュアルエッセイです。
このようなラインナップで、「ポーランドSF映画の世界」は、古典から現代まで、ポーランドSF映画の創造力と独自性を余すところなく紹介します。

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